2014年
奄美黒糖焼酎の日
我が家の愛車に搭載されたナビは、落ち着いた女性の声である。彼女はその日初めてエンジンをかけたタイミングで、礼儀正しい挨拶と共に「今日は○○の日です」というミニ知識を授けてくれる。
ひなまつりとか七夕といった季節行事には「ああ、そうね、今日だったね」と素直に頷けるものだが、「今日はかつおぶしの日です」や「今日はビキニスタイルの日です」と、フラットな語調にはそぐわない驚きの記念日が発表されることもしばしば。
そんな彼女が、5月9日はアイスクリームの日、10日は愛鳥の日と宣うのである。
違う。
違うんだ。
アイスクリームにも鳥にも申し訳ないが、私が聞きたいのはそれじゃない。
だって、5月9日も10日も奄美黒糖焼酎の日じゃないか(涙)。
2007年に鹿児島県酒造組合奄美支部は、5月9日・10日を「5(こ)9(く)10(とう)」とかけて奄美黒糖焼酎の日に制定した。この記念日を通して黒糖焼酎を広めるための試飲イベントが行われているが、残念ながら未だ全国的知名度は低いようである。
黒左党ではもちろん、奄美黒糖焼酎の日は盛大にお祝いする。
黒糖焼酎は連日連夜飲んでいるので、この点は日常と変わらないわけだが、いつもの適当なおつまみではなく、奄美にちなんだ酒肴を1品用意するのだ。
2014年の奄美黒糖焼酎の日のメインは海鮮系で攻めることにし、冷凍庫で眠らせておいた奄美食材「とびんにゃ」と「すがり」を活用してみた。
「とびんにゃ」とは奄美大島北部での呼び方で、大島南部や徳之島では「てぃらじゃ」、沖永良部では「とぅびきらざー」、与論では「てぃだら」などと呼ぶそう。マガキガイという巻き貝で塩茹でにして食べると、磯の香りがふんわりと漂い、味が濃くてとにかく美味い。(喜界ではこのとびんにゃは食べないと聞いたが、「くんまー」というまた別の美味しい貝があるらしい。食べてみたいっ。)
「すがり」とは、ウデナガカクレダコという名前から想像できるように、脚の長い蛸である。真蛸や水蛸なんかよりもずっと旨味が詰まっていて柔らかい。あまり市場に出回らないと聞いたので、奄美大島のスーパーで見つけた時に迷わず購入したのであった。奄美群島の海産物の魅力は底なしである。
とびんにゃは与論島・有村酒造の有泉で酒蒸しにして、せっせと中身を取り出した。殻のいくつかは飾りのためにとっておこう。すがりは適当な大きさにカットして喜界島・朝日酒造の朝日をふりかけておく。更に、アルゼンチン産の赤エビを下焼きし、地元産のアスパラガスやどこ産か忘れたパプリカなども下準備完了。
あとはいつものごとく適当な手順で作成したパエリア。とびんにゃとすがりの出汁がしっかりと効いてほのかに黒糖焼酎が香る贅沢な味にまとまった。赤えびではなく奄美のセミエビを使えたらもっとよかったんだけど。
奄美黒糖焼酎の日は黒糖焼酎単体ではなく、奄美の料理や食材もひっくるめて紹介できるいいチャンスだ。全国各地の車のナビが5月9日・10日に「今日は奄美黒糖焼酎の日です」と話しだすその日まで、今後も細々と身の回りの人々を啓蒙していきたいと思う。
2014/05/10
書いた人
peng
奄美黒糖焼酎語り部。
黒糖焼酎に合う料理や黒糖焼酎を使った料理を考える時間が至福。
毎年2月にたんかん・とびんにゃ商人と化す。