りゅうぐりあ

初めて奄美大島を訪れたのは2月下旬だった。とにかくいたるところにオレンジ色のたんかんが山積みになっていた。あの年は当たり年だったのだなと今は思う。あの後、何度かこのシーズンに島を訪れているが、街なかにオレンジ色がみえない年もあった。
南の島だからと予想していたよりは朝晩の空気がひんやりして曇りがちだったけれど、あの暖かいオレンジ色に包まれた場所というのが、私の初奄美大島のイメージである。

皮を剥いているときに弾けて漂う香りと、口に入れた時の甘みの濃さ。これをシーズンが終わった後に思い出してしまうと悶絶するのだ。たんかんは、他の柑橘類の追随を許さず(と私は固く信じている)、一度食べてしまうと決して忘れられない魅惑の果実なのである。はぁ、たんかん食べたい・・・。

たんかんの写真

この香りと味を黒糖焼酎に合わせることは、きっと誰もが考えつくし、想像するだけでマッチすることがわかる。土地の果物と土地の酒が合わないはずはあるまい。大好きな富田酒造場の龍宮×大好きなたんかん。そこに遊びごころとしてスパイスをプラスしてみた。

念頭においたのはスペインのサングリア。ワインに果物とスパイスを入れて漬け込む、フレーバードワインといえばいいだろうか。飲み残しのワインにその日家にある果物を入れてつくったり、各家庭によって使うスパイスが異なったりと、自由度の高いスタイルの飲み物だ。でも、オレンジやレモンといった柑橘類は必ず入っている。そのさわやかさが重要だから。

そのむかし、まだお酒を飲み慣れていなかった頃、ワインのおいしさはわからなかったけど、サングリアは甘くさわやかな香りとフルーティーさが心地よかった。そしてサングリアを飲んでいくうちに、ワインそれ自体のおいしさにも目覚めた経験がある。だから、焼酎初心者にも楽しんでもらえる飲み方として、この龍宮×たんかん版サングリア「りゅうぐりあ」を提案したい。

初回の試作。

りゅうぐりあの材料の写真

2Lサイズのたんかん2個を輪切りにしてピッチャーに投入。手をグーにしてワンパンチをお見舞いし、じんわりと果汁を滲み出させる。そこに、カルダモン1粒、クローブ3粒、シナモン1本、粒胡椒(黒)5粒を投入。徳南製糖の生黒糖5gを溶かした龍宮30度500ccを注いで、約5時間半ほど常温で放置。

試飲。

りゅうぐりあの写真

こういう香水があってもいいのではないかと思うほど高貴な香りが立ちのぼる。
龍宮とスパイスは想像通りの妙なるコラボレーション。互いが互いの個性を引き出して、甘みのある香りが現れてくる。そこにさわやかなたんかんの香りが加わって、全体を引き締めているという風情。kochingはクローブを強く感じるのでもう少し控えることを提案。確かに。シナモンも減らしていいかもしれない。
味としてはもう少したんかん果汁を加えたほうがバランスがいい気がする。そこで、グラスにたんかんの輪切りを絞りながら浮かべてみるとちょうどよくなった。

りゅうぐりあのグラス写真

焼酎初心者の方々には炭酸割りで、シャンパングラスで供するとよろしいのではないだろうか。我々はそのまま冷やしてストレートかロックという飲み方で、がっつりハマってしまった。
どうやら焼酎初心者だけでなく黒糖焼酎に飲み慣れた人にも、新しい楽しみ方としてこのりゅうぐりあはおすすめできそうである。

初回の試作を踏まえて調整をかけた2回目の試作。
Lサイズのたんかん1個を3パンチで、前回より果汁を多めに滲み出させる。カルダモン1粒、クローブ2粒、黒胡椒5粒、シナモン1/2本。徳南製糖の生黒糖5gを溶かした龍宮30度500ccを注いで、4時間40分常温で放置。

そして試飲。
初回の試作よりスパイス量自体は減ったのに、それぞれの香りが強まってさらに一体感が増した。スパイスの配合はこの分量でよさそう。静かな感動に包まれた。
でも肝心のたんかん感は不足気味。果汁を前回よりだしたとはいえ、たんかんは2個は必要だった模様。

2回目の試作を踏まえて調整をかけた3回目の試作。
・・・をしようというところで、今季のたんかんがきれてしまった。続きは次のたんかんシーズンまでおあずけである。
来年もたくさんのたんかんが実りますように。

2014/09/29

書いた人

peng

奄美黒糖焼酎語り部。
黒糖焼酎に合う料理や黒糖焼酎を使った料理を考える時間が至福。
毎年2月にたんかん・とびんにゃ商人と化す。