一番橋、しゅわしゅわ

思い返せば、昨夏はビールをケースで買わなかった。というか、ビール自体ほとんど家で飲まなかった気がします。

というのも、数年前から黒糖焼酎の炭酸割りが夏の定番になったから。そして積み上がる炭酸のペットボトル。いい加減処分するのに辟易して、家庭用の炭酸メーカーまで買ってしまったくらいハマっているのです。

焼酎も日本酒も、夏の酒が店頭に並び始めた今日この頃、今年もまもなく夏がやってくるわけです。酷暑なのか冷夏なのか、いずれにしても夏は暑い。
暑い夏が来る前に、やっておきたいこと、それが炭酸割りの研究なのです。

以前、長雲一番橋の炭酸割りが蔵元おすすめの飲み方だという記事(黒糖焼酎×島野菜イタリアンの会に潜入♪)を読んで、一番橋の炭酸割りを試したことがあります。
一番橋はもちろん大好きだし、これまで何杯も飲んでますが、このお酒はロックが最高に美味しいという記憶。そして試して思った、やっぱりロックの方が好きだなぁという記憶。

そのためか、炭酸割りの研究を思い立ったとき、真っ先に浮かんだのがこの一番橋。もう一度、ちゃんと向き合ってみようと思ったのです。

思えば、一番橋の豊かな黒糖の風味の中には、湿ったミネラル感がたっぷりと感じられる味。つまり、炭酸水のミネラル分との関係、そしてその香りを押し出す炭酸の強さによって、味は大きく変化するんじゃないかと。蔵元がすすめる味を、僕は知らないだけじゃないかと。

前置きがずいぶん長くなりましたが、要するに、一番橋をいくつかの炭酸水で試してみようというお話なのです。

一番橋と炭酸の写真

試飲の方法

普段グビッと飲んでる感じに近く、でも条件を揃えられるように、試飲は以下の方法で行いました。

  • 氷で味が変化するのを避けるため、氷は使わない。
  • 代わりに、炭酸も一番橋も、どちらも冷蔵庫で冷やしておく。
  • グラスに一番橋を計量カップで量って注ぎ、その後、炭酸も計量して入れる。
  • グラスは同じものを使用して、試飲する前に必ず水で口をリセットする。

炭酸水いろいろ

以前、バーテンダーの方に、水割りには硬水を使った方が美味しい(前割りなら軟水だけど)と聞いたことがあります。とは言え、全ての焼酎にそうなのか、硬水だとしても、どの程度がいいものか。
ということで、硬度の高低、炭酸の強弱、価格帯などを考慮して、以下の8種類を選択しました。
ちなみに、炭酸の強さについては基準値や評価方法がないようなので、自分で飲んだ感想と、いくつかのサイトでの比較を元にした内容です。

商品名 原産 硬度(mg/L) 炭酸
ゲロルシュタイナー ドイツ 1302
ペリエ フランス 400.5
オジュ フランス 169
ウィルキンソン タンサン 日本 軟水(100未満)※1
ザ・プレミアムソーダ
山崎の天然水でつくったソーダ
日本 94
南アルプスの天然水 スパークリング 日本 30
クラブソーダ 日本 0-40.0※2
いろはす スパークリング 日本 27.7-40.6

※1: ウィルキンソン タンサン製造元のアサヒ飲料さんに問い合わせたところ、製造工場は全国数ヶ所にあり、それぞれ地下水であったり水道水だったりと水源は異なっていて、個別の数値は公表していないとのこと。ただし、いずれの工場も特に硬度が高い水は使用していないため、軟水(100mg/L未満)ですとの回答を頂きました。

※2: クラブソーダ製造元の友桝飲料さんに問い合わせたところ、採取の時期により硬度に幅はありますが、0-40.0の範囲の軟水ですとの回答を頂きました。

参考サイト:

試飲の写真

利き炭酸

まずはそれぞれの炭酸について、そのまま飲んだ感想を。

  • ゲロルシュタイナー
    言わずと知れた、硬水の有名ブランド。美容と云々的なお話には良く登場する水。
    ツルッと硬質な舌触りだけど、尖った感じはなく、とてもスマートな印象。酸味は少なく、硬度の数値から想像されるほどミネラル感も前面に出てこない。強めの炭酸だけど気泡は細かく、それがスマート感に拍車をかけるのかもしれない。
  • ペリエ
    おしゃれ炭酸の代名詞と思ってる、超有名ブランド。高いから普段は飲みませんけど。
    強い炭酸がキリリとドライな印象。舌の上では味がなく、後味に青みのある風情。水だけど、乾いた印象のようなすっきり感。気泡の大きさが爽快感を生み出している。
  • オジュ
    まったり丸い舌触り。ほんのり酸味が香った後はするっと消える美しい後味。炭酸が弱いため、頼りない儚げな印象で、割材としては心許なく感じるけど大丈夫かなぁ。
  • ウィルキンソン タンサン
    割材の王者、ウィルキンソン。ほんのりとした酸味があり、強炭酸の刺激がツンとくる。でも後味に癖はなくバランス良く爽快に消えていく。個人的にもっとも愛用してきた炭酸だけど、国産炭酸水の中では高めのお値段。
  • ザ・プレミアムソーダ 山崎の天然水でつくったソーダ
    山崎をこれで割ると格別と評判の、山崎の仕込み水から作ったソーダ。小瓶でお値段もお高いプレミアムな一本。丸い舌触りで弱めの炭酸がピリッとした後はとろりと溶けるように消える。水自体が美味しいと思うしっとりとした味わい。
  • 南アルプスの天然水 スパークリング
    日本を代表するミネラルウォーター、南アルプス天然水のスパークリングバージョン。酸味が強く、強炭酸の刺激と合わさってパンチが強い。酸味は思ったより尾を引かず、すっと消えていく。
  • クラブソーダ
    安価で強炭酸、格安炭酸の巨塔(笑)、友桝クラブソーダ。強い炭酸がゴリゴリと大きな泡で放たれる強力な刺激。酸味も強く、ミネラル感とは違った意味で癖がある。味わいのふくらみはなく、さらりと消える。
  • いろはす スパークリング
    固いペットボトルのいろはすに意味はあるのかと問いかけたい新作(苦笑)。ほどほど強い炭酸、ほどほど強い酸味と、国産では中庸を行く味。何か後味に残り癖がある印象。普通のいろはすは好きなんだけど、これは好みじゃなかった。

一番橋 5 : 炭酸 5

確実に濃いだろうなと思いつつ、お湯割や水割りの基本と同じく5:5からスタート。40mlずつの80mlで試してみました。
(以下のコメントは飲んでるときに書き殴ったものそのままです)

  • ゲロルシュタイナー
    ミネラルの味が強すぎて、長雲の味が消える。
  • ペリエ
    口当たりが柔らかく、でも甘みや味わい自体は強くでるようになった。味はややミネラル臭さが気になるくらい。
  • オジュ
    丸い。尖らない。パンチにかける。味全体が薄まった印象。
  • ウィルキンソン タンサン
    旨味と苦味が強く立ち上がる。薄まった感がない。美味しい。香りを立たせる。
  • ザ・プレミアムソーダ 山崎の天然水でつくったソーダ
    アタックは柔らか。旨い。一体感がある。甘さが引き立つ。素晴らしい。
  • 南アルプスの天然水 スパークリング
    シンプル。やや甘みを削ぐ印象。後味がややしつこい気もするけど、全体的には良い印象。
  • クラブソーダ
    後味が崩れて苦くて酸っぱくしつこい。
  • いろはす スパークリング
    バランスが崩れる。なんかいまいち。なんかまずい。臭く感じる。

予想通り、やや濃かったなと。美味しさは十分、だけど炭酸と合わさって振りまかれる香りや味に軽快な感じがなくて、ちびちび飲むべきか、グビッと飲むべきか迷ってしまう感じ。濃い目が好きな人でも、ほんの少しは炭酸を多くしたほうがいいのかも。

一番橋 4 : 炭酸 6

このあたりの濃度が美味しいかなと、本命の濃度。80mlだと多すぎたので20mlと30mlの50mlで試してみました。
(以下のコメントは飲んでるときに書き殴ったものそのままです)

  • ゲロルシュタイナー
    マシになったけど、味は膨らみにかけて、後味もミネラルがうっとおしい。
  • ペリエ
    うまくなった。でも後にミネラルがまとわりつく。香りはいいんだけどなー。
  • オジュ
    微炭酸だけどまったり丸くて悪くない。でも物足りないかな。ミネラルが甘みの中にある。ミネラル感が強すぎるわけじゃないけど、甘さ自体は支配されてる印象。
  • ウィルキンソン タンサン
    味わいが強すぎず弱すぎず。よいですなー。人によっては酸味が気になるかも。でも香りを押し出す感じはあって、後味にも余韻。
  • ザ・プレミアムソーダ 山崎の天然水でつくったソーダ
    丸さが強くて、ややパンチにかけるかも。美味しさではウィルキンソンと並ぶんだけど、アタックの弱さで負けるかな。
  • 南アルプスの天然水 スパークリング
    やっぱりややドライに仕上がる。これもこの比率が旨い。香りはやや物足りないが、後味のキレイさは一番かも。
  • クラブソーダ
    甘さが中心にでる。後味も、ミネラルじゃなくて黒糖感。でもバランスが悪い。なんでだろ。
  • いろはす スパークリング
    なんか味がひねる。良くない。でも惜しい感じになってきた。

炭酸が弱いものだと、もう少し一番橋の比率を上げたほうが美味しいかもしれませんが、強炭酸だと概ねバランスが良いと感じます。口に入れた時の印象はキリッと心地よく、余韻は程々伸びて収束する傾向にあり、炭酸による味の変化が良い方向に判りやすく出ている印象です。

一番橋 1 : 炭酸 2

本当は3:7をやりたかったんだけど、少量だと目盛がなくて断念。いつも飲む炭酸割りはこれくらいかな。20mlと40mlの60mlで試してみました。
(以下のコメントは飲んでるときに書き殴ったものそのままです)

  • ゲロルシュタイナー
    ないない、気持ち悪い。
  • ペリエ
    後味がひどくミネラル。おぇ。
  • オジュ
    ミネラルすぎる。ある意味、水の味がよく出てる。
  • ウィルキンソン タンサン
    あれ、薄い。うーん。
  • ザ・プレミアムソーダ 山崎の天然水でつくったソーダ
    これも薄いなぁ。でも、上品に飲むならこれは美味しい。炭酸割りというよりは、水割りとしての位置づけだな。
  • 南アルプスの天然水 スパークリング
    シャープさが増す。でも水の臭いが強いとも言える。全部そうか。1:2なら、一番美味しいのはこれかなー。
  • クラブソーダ
    中庸。悪くないけど、やっぱりなんか最後がいまいちやなぁ。後味の苦味がうーん。
  • いろはす スパークリング
    ミネラル強でまとまった印象。いろはすならこれが一番美味しい。

軽快さは増すけど、その分だけ満足度が減ってしまいもったいないかも。後味に水の特徴が強く出るようになり、相性の良し悪しが判りやすいです。この比率だと、炭酸割りよりも水割りのほうが味わいが判りやすいかもしれません。

一番橋と硬度

水割りには硬水がよいと聞くけど、なにごともやりすぎは良くないですね。ゲロルシュタイナーとペリエは、一番橋にも水にも申し訳ない味になってしまいました。一方でミネラル分をほぼカットしているクラブソーダだと、炭酸由来の酸味が癖となってバランスを崩しています。

ウィルキンソンの正確な硬度は不明ですが、酸味の印象からは山崎の天然水でつくったソーダよりは少し柔らかく、南アルプスの天然水よりは結構硬い印象です。
ウィルキンソンも山崎の天然水も、炭酸の強さによる印象の違いはありましたが、味のまとまり具合はどちらもとても美味しかったです。これを踏まえると、一番橋の仕込み水の硬度は存じていませんが、奄美大島は軟水(例えば住用のミネラルウォーター「あまいろ」は43.5ml)と聞きますから、同じ程度から少し高めくらいが良いのかもしれません。

一番橋と炭酸の強さ

圧倒的に、炭酸は強い方が美味しかったです。炭酸によるアタックが一番橋の香りを加速させて、吹き抜けるように黒糖の風味が楽しめました。微炭酸が美味しくないわけではないですけど、炭酸の効果を楽しむならアタック強めがオススメと言えます。

ストレートやロックの場合は、度数のアタックがあるから心地よくしびれる感じがあって、水割りは氷の冷たさでアタック感を補ってるのだとは一緒に試飲したpengの言葉。なるほど、何かしらのアタックがあると、グイッと味に引き込まれるというのは納得ですね。

一番橋と比率

4:6が一番美味しかったです。1:2でも、やや薄いと感じるくらい、微妙な差で印象が大きく変化することがよく判りました。一番橋を炭酸で割る場合は、ロックで飲む味のリッチさの印象とはちょっと異なり、このお酒がもつ繊細さが浮き出てきたように思います。

8種類中7種類で4:6が一番美味しかったということは、とりあえずこれくらいを目安にすれば、大きく間違えないということ。いつもは3:7くらいにケチってたけど、それでは物足りなかったんですね。炭酸が弱い場合は、少しだけお酒を増やすと良いかもしれません。

総括

爽快にグビッと飲むには、ウィルキンソン タンサンか、南アルプスの天然水 スパークリングをオススメします。ドライに倒すなら南アルプス、リッチにいくならウィルキンソンでしょうか。

一方で、ストレートで飲む一番橋に一番近いと感じたのは、山崎の天然水でつくったソーダ。奄美の湿った森の香りを抱き込んでいるような感覚で、とても美味しかったです。上述のとおりアタックの弱さが気になるので、そこは氷で補えばさらに美味しいということでしょう。

個人的には、4:6でウィルキンソン タンサンが素晴らしく美味しくて好みです。蔵元が炭酸割りをオススメするだけあって、確かに、と唸る美味しさに出会えました。ちなみに冒頭で紹介した記事、あの中でもウィルキンソンが使われているという、答えはちゃんとあったというオチまでついたのですが。

今回の試飲、美味しい炭酸割りのポイントが判ったという点は、予定通りの成果となりました。

でもそれ以上に、ここまではっきりと味の違いにコメントができたという事実に驚愕しております。今回の結果は僕の好みの味がベースなので、人によっては当然違いもあるでしょうけど、水の違いでここまで味が変わるという点にはきっと同意してもらえると思うのでした。

炭酸割り、なんて簡単に思わずに、カクテルを作るつもりでいると、一層美味しく味わえるのかもしれませんね。

シリーズしゅわしゅわ

この記事は、奄美黒糖焼酎の炭酸割りについて、ちょっとだけ深く考えてみる「シリーズしゅわしゅわ」の1回目です。
2回目は、「奄美30度、しゅわしゅわ」です。こちらの記事もどうぞ。

2015/04/27
2015/05/05シリーズ化

書いた人

koching

奄美黒糖焼酎語り部。
もったいなくて飲めないお酒を買い集めるのが趣味。
甘いものでも辛いものでも、なんならお酒(の瓶を眺めること)を肴に酒が飲める人種。